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野外体験産業研究会は、自然と農山村の暮らし・都市の暮らしの関わり方をメインテーマに、「持続可能な社会の可能性」を意識しながら、きたるべき近未来に提唱すべき新しいライフスタイルの検証と実践と、その背景理論の精査・整理を目的に活動を続けてきた。平成16年3月に、島根県中山間地域研究センターから委嘱を受けて開始した活動実績については、島根県に提出した「野外体験産業育成成果報告書Vol.1~Vol.3(編・著 島根県中山間地域研究センター 野外体験産業研究会 )」に詳しい。従来、こうしたジャンルの研究は、それを専門とする研究者がアカデミックな環境に於いて、それぞれの研究者の「所与の認識」にもとづいて行われて来た。しかし、ときに、そのフィールドを「体験としての理解を伴わない研究」が社会にもたらす危険についてこそ、真摯にあるべきだと言えば、それは傲慢のそしりを免れないだろうか。
野外体験産業研究会はこうした認識こそを最も大切にすべきものと意識しつつ、当該地域に暮らし、地域社会の未来を真摯に考える「生活者である若者たち」と共にその実践的研究活動を続けてきた。だけに、その成果には「特筆に値するもの」があったと自認する。その資料としての重要性をおもい、執筆者の許可をいただいてここに記事としてあげることにした。 本稿は、平成18年度に野外体験産業研究会がおこなった「北欧研修」から、実践する研究者 石川 哲 氏(クラフトキャリア代表)の、「鉄」と、その「鍛造技術」からみた「北欧文化」とでも言うべき大変興味深い報告書である。 田園風景に時間の流れを演出するツール「鉄」の可能性 私は普段金属加工の仕事に従事している。だけに、今回の北欧研修では金属加工物、特に鉄製品に注意して見てきた。北欧の降雨量は山陰と共通するイメージがあるので以前から興味があった。雨による鉄への腐食にどのように対処しているのか、とくにこだわって観察したのは昔ながらの鍛造技術(ロートアイアン)を駆使したものです。機械による溶接技術を使用する以前の金属加工物は素材の特質を利用したデザインとなっており、より素材を知るきっかけになると考えたのです。例えば金属の棒に穴をあける場合、現代ならドリルを使用しますが、ロートアイアンでは鉄を裂いて広げます。ドリルを使用した場合は棒のアウトラインに変化は無く、ロートアイアンでは穴の周りだけアウトラインが変化するという違いが生じます。お互いの方法に利点があり、単に昔の金属加工方法として切り捨てられるものではないところが面白いところです。 右の写真はロートアイアンの技法を使った製品(北欧の民族資料館に展示)です。実用本位の限りなくシンプルな物ですが、ロートアイアン技法として全く無理の無い合理的デザインです。「田園に豊かに暮らす」という命題で挑んだ北欧研修に対し、漠然とではありますが、自分が思い浮かべたキーワードが「鉄の腐食対策」と「鍛造による金属加工物」だったのですが、研修中はそのことにどれだけ意味があるかなどは見当もつかず、正直「気になることは、とにかくこだわってみるか」というのが実状でした。今回の発表では「田園」というキーワードに繋がりそうな「気になった金属物体」を見ていただき、それに関する自分なりの解釈、感想を交えていきたいと思います。 1.教会で見かけた鉄(古くからある鉄) (1)扉に関わる金具 この扉は古い木製教会(ペタヤヴェシ)のもので、金物は伝統的なロートアイアンで造られたものなのですが扉自体が造られた時には無かった様です。オリジナルの軸(おそらく木製)が痛み、修復のおりに金属製に置き換えられた物。印象としては後付け感が拭えないのが残念ですが、木に染み付いた鉄の錆び色が時代を感じます。腐食対策として導入された鉄製金物ではありますが、ゆっくりと腐食は進み錆び汁も垂れる。しかし結果としてそれが時間の流れも感じさせ、尚且つ強度も保持できるという鉄の特性。今までの「常に新しいこと」を追いかけていた価値観では利用価値の低い特性だったかもしれないですが、時間に関する価値観を変化させることでこの特性をポジティブに捉え利用することはできるでしょう。実際に今やこの古い教会を訪れる人のほとんどが観光目的で、その人たちが求めるものは「時間の流れを感じる」ことなのではないでしょうか。そのような場所では鉄の持つ特性が十二分に発揮されていると思います。 (2)木製門扉のヒジツボ これもペタヤヴェシの木製門扉の金具。ヒジツボとは門扉などの稼動部分の金物を指す。写真のヒジツボは伝統的ロートアイアンで造られた装飾性がほぼ無いシンプルなもの。昔の鉄製品は腐食特性を考えた場合あらかじめ「錆びシロ(腐食してしまう部分)」を考慮してデザインされており、要は構成素材を厚くして腐食に対処します。さらにパーツの接合方法にも工夫し肉厚の部分ならばハメ込み構造が有効になるので鍛接や溶接を極力避けられます。よって腐食による接合部分のはく離を防ぐことができ、写真は正にその例であり実によく錆びてはいるがまだまだ現役です。このヒジツボをピックアップした理由は「時間の流れ」を感じさせる要素である錆びが技法によってコントロールできる点、尚且つ技法自体も古くそれ自体時代を感じさせるものである点に注目したからです。何気ない金物ですが「演出」「技法」「デザイン」の関係に必然性があるという好例と感じ、専門的な話になりますがあえて解説しました。 (3)鍵付きカンヌキ 北欧最古の木造教会(ウルネス、世界遺産)の木製門扉には少し複雑なカンヌキがありました。これはカンヌキと鍵が一体化したもので、やはりロートアイアン製です。デザイン的には、加工の際に生じる歪みをそのままにするという素朴なものです。作られてから最低でも百年は経っていると思われます。欠損部分は無くカンヌキとしての機能は果たすのですが、内部のバネ等の腐食によって鍵をかけることは出来ません。しかしながら土地柄的に鍵の必要性が薄く感じられるので問題は無さそうでした。カンヌキとしては使用できた点、絶対的な防犯性が必要ではなかった点から今まで修理されずに使用されつづけたのでしょう。鍵としての機能を果たさなくなってから久しいと思われるのですが、だとしたらそもそも鍵が必要だったのでしょうか。周囲の塀は低く鍵があったとしても無意味なので、もしかすると鍵が付けられた当時は今よりしっかりした塀があったのかもしれません。真偽はともかく、その様に想像できたのは鉄という時間の経過を感じることができる素材のおかげであり、世界遺産に関わる備品の素材として意味のある事なのかもしれません。 (4)進入禁止エリアを示す杭 これも同教会で見かけたものです。これは進入禁止エリアを示す杭で、高さはおよそ40cmでロープが通せるようになっています。地味ですが一応ロートアイアンの要素があります。鍛造加工で潰した部分に穴をあけてあるのですが、これはロートアイアンから生まれるデザインとして定石といえるものです。降水量から考えた場合、ステンレス製ならばメンテナンス性が高く、同じような状況でその様な選択をする場所は多いと思うのですが、ここでは腐食する鉄が選択されました。ロケーションの雰囲気を大切にした結果がこの杭なのでしょう。 2.墓地で見かけた鉄(鍛冶仕事の墓標など) (1)平鋼を用いた墓標 これは8本の平鋼を個々に鍛造し、最後にリベット止めする手順で作られたロートアイアンならではの十字架です。大きなリベットが程よいアクセントになっています。これは森の中にある墓地の事例ですが、周囲の木々の緑と鉄の錆び色が非常に合っていると感じました。そう感じた理由は、色は違えどどちらも自然から生まれた色彩だからなのかもしれません。墓地は人の死に関わる空間なので「時間」という概念が1つのキーワードとなります。後ろに写っている「不変」を感じさせる石の墓標、それとは対照的な経年変化した鉄の墓標が同じ空間に混在していても違和感が無いのは、対照的な2種の墓標が「時間」という概念の表と裏の関係にあるからなのではないでしょうか。 (2)角棒を用いた墓標 こちらもロートアイアンならではの墓標。 角の無垢棒を組み合わせた十字架に唐草模様で飾り付けるというロートアイアンの基本様式で作られています。女性のお墓らしくぬいぐるみなどが供えてありますが、唐草のパターンが花を連想できるような形なので個人的には違和感がありませんでした。重厚なイメージで扱われることの多い鉄製品ですが、素材の自由度は高いので形などを工夫することによってカジュアルな演出もできるのではないでしょうか。 (3)リベット止めグレーチング これは森の墓地(ストックホルム)敷地内の排水溝で使用されていた鉄製のグレーチングです。撮影当時は全て鍛造したものと判断していましたが、一部鋳鉄の可能性もあります。リベット止めのグレーチングなので手作り感が出ており、錆び具合と相まって味わい深く感じました。しかしながら鋳鉄による一体形成のグレーチングと比べコストがかかります。排水溝の数は確認しませんでしたが、使用するならば特殊な空間での限定使用が条件でしょう。森の墓地には多くのロートアイアン製墓標があり、その関係でグレーチングもこの様な物が使用されたのかもしれません。 3.街で見かけた鉄 (1)テンペリアウキオ教会の十字架 ヘルシンキの中心部にある現代的な教会 テンペリアウキオ教会の十字架。建築に合わせて十字架のデザインもモダンなものとなっていました。現代的な建築ではありますが内装の素材は石、銅、鉄など古くから建築に使用されていた物が多用されており、落ち着いた雰囲気となっていました。十字架も形は現代的だが、色彩的には鉄の錆びの色なので、同様の考慮がなされています。ただし通常の鉄板が錆びたものではなく、新しい素材である耐候性鋼(コールテン鋼など)の可能性があります。しかしながら塗装ではなく、本物の錆び色であることには変わりはありません。 技法的には伝統的なロートアイアンではなく、ベンダー曲げと溶接という機械加工で作り上げられています。 (2)バス停 ユバスキュラ駅前のバス停。ユバスキュラ駅自体の外壁がコールテン鋼で覆われており、それに合わせてバス停もコールテン鋼張りとなっていました。これも機械加工で作られています。今回のレポートでは鉄にこだわっていますが、実際北欧の建物で多く見かけられたのは真鍮や銅を使用したもので、それらの大半は緑青(真鍮や銅に発生する錆)の色でエメラルドグリーンとなります。写真の後方に写っている建物の緑色の壁は真鍮製ではなかったが、緑青を意識した色と思われます。素材の違いにかかわらず、金属自体の持つ色に対する思い入れを感じました。 4.異素材との関係 (1)石と鉄 石と鉄という組み合わせはよく見られますが、左の写真は組み合わせが複雑で、一度格子を組み込んでしまえば取り外しは困難と思われます。メンテナンス性を考慮してないにもかかわらず鉄を使用していることから造られた時代がうかがえます。一方右の写真(石の階段を上から撮影)の場合、鉄製の鎹(かすがい)を補助的に使用しています。水のたまり易い場所に鉄を使用していますが、この場合は例え腐食しても交換は比較的容易にできるかもしれません。石と鉄はお互いの性質を補助できる関係である上に、主観ながら味わい深い組み合わせでもあると思います。扱う技術や知識、コスト、メンテナンス性をしっかり考慮すれば、鉄であっても屋外で使用されることの多い石と組み合わせて積極的に使用する価値はあると思いました。 (2)木と鉄 木の柔らかさを補助する形で金具を使用することは多いのですが、昔の農村地帯にはどの村にも鍛冶職人がおり、補強金具から刃物まで一手に引き受けていたはずです。写真の金具は大きな木製扉に使用されていた鉄製の兆番です。これを面白く感じたのは、形に限っていえば斧の刃と造り方が同じデザインであり、軸受け部分は斧の刃では柄を挿す穴に相当します。釘を打つ点はそれぞれ三角形をなすベースの頂点となっており、3点で固定する上でも意味のある意匠となっています。これはスカンセン屋外博物館(ストックホルム)での、北欧の農家を再現したスペースで発見した物ですが、農家のデザインという意味で非常に興味深く感じました。さらに個人的解釈で、斧が木を連想させる道具であり、それと相似形の金具が木製の扉に使ってあるということは洒落ていると思いました。 まとめ 当初の予想以上に北欧の屋外で使用されている鉄製品は多かったです。もちろん圧倒的に錆止め塗装されているものがほとんどでしたが、古い建物には鉄肌剥き出しのものがよく見られました。もちろん元々は錆止めの為にタールを焼付けていたはずで、それが剥げ落ちてしまった結果ではあります。しかし重要だと思った点は、古い建物の錆びてしまった金具を取り替え、そのついでにメンテナンス・フリーの素材に置き換えたケースはあまり無かった事です。周囲の備品についても古くから使われてきた鉄を極力使用するという明確な意思を感じました。歴史的な、または歴史を重んじる建築物の演出に、素材という要素は重要だという事なのですが、このような考え方は、田園風景を演出する事にも応用できる事なのではないでしょうか。田園の風景には時代を超えた「昔から変わらない景色」という意味もあると思います。「時間」という概念を田舎暮らしの演出の一部に加えて考えた場合、素材について深く考える価値はあると思います。あくまで昔を演出する上で「歴史ある素材」を使用するという考えは1つの例であり、逆に「新しい素材」であっても違った形で時間を表現する事はできるはずで、要は素材に対してどれだけ意識できるかの問題です。今回の北欧研修で自分が発見した事は「素材が時間を表現するツールであり、時間表現は田園風景演出における1つのツール」という方法論です。 石川 哲(クラフトキャリア) ------------------------------------------------------------------------------------- 「野外体験産業育成成果報告書Vol.3」からの抜粋 監修 岡野 正美 野外体験産業研究会代表・しまね自然の学校代表 編集 有田昭一郎 島根県中山間地域研究センター地域研究グループ/主任研究員 執筆 石川 哲 (クラフトキャリア代表)
by nature21-plus
| 2009-07-31 18:56
| 野外体験産業研究会
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